在宅医療で行うことができる緩和治療

ほとんどの緩和治療は自宅や介護施設でも提供できます。

病気によりいろいろな症状がおこります。例えば痛みとか息苦しさ、吐き気などです。病気による苦痛とも言えます。

薬や道具を使うことでこういった苦痛を取り除いたり軽減したりすることができます。このような治療を「緩和治療」と呼んでいます。

緩和治療に用いる方法の大半は在宅医療でも提供できます。緩和治療で入院していないとできない手技はわずかです。

在宅医療でも以下のような治療ができます。

1.痛みのコントロール

困る症状の代表は痛みです。不快ですし、激しいと生活が困難になります。痛みに襲われている人を見るのもつらいです。痛みをコントロールするためにはいろいろな薬や道具があります。

a.痛みの評価

痛みの因子はさまざまなです。まず原因を分析します。病気そのもの以外に不安やストレス、環境なども痛みの程度に関わります。トータルペインという考え方があり、その考え方が痛みの解決のために有用なこともあります。トータルペインの考え方はこちらをご覧ください。

痛みは病気やけがの状態だけでなく、ご本人が痛いと思うかどうか(感受性)も重要です。同じ程度の病気やケガでも強い痛みを感じる方と、あまり痛みを感じない方おられ、個人差はかなり大きいです。感覚的に痛いかどうかは測定は難しいので、ご本人にどれくらい痛いかというのを数値化していただくためにペインスケールなどの工夫で程度の把握に努めます。ペインスケールによる痛みの把握はこちらをご覧ください。

b.痛みの原因となる病気の治療

痛みの原因そのものを取り除くことができれば痛みのコントロールにかなり有効です。例えば便秘による腹痛であれば下剤や浣腸による便秘の治療、指の爪周囲にたまったひょうそと呼ばれる膿の貯留による痛みであれば排膿などです。しかし病気によって原因を取り除くことは困難という場合には痛みを減らすために以下のような方法をとります。

c.様々な薬

いわゆる痛み止めです。痛み止めには様々な種類があります。NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬の略)と呼ばれる痛み止めやオピオイドと呼ばれる痛み止めまで様々です。飲み薬、貼り薬、塗り薬、注射など投与経路も様々です。様々な痛み止めはこちら(20230330工事中)をご覧ください。

これらの薬は在宅医療で医師が診察したのち処方し、自宅や介護施設に届けて使うことで痛みを和らげます。

痛み止めの効果を判定するのも重要です。ペインスケールなどを用いて評価します。薬を使っても痛みが和らがないときには薬を追加したり、種類を変更したりします。細かい薬の調整が必要な時には複数回の在宅医療が必要になる場合もありますが、訪問看護と在宅医で連携して対応します。まれに激しい痛みで在宅医療での対応が困難な場合には麻酔科などの医師と連携して入院による痛みのコントロールを行うこともあります。入院が必要となった痛みのコントロールの例はこちら(20230330工事中)をご覧ください。

d.理学療法

痛みをコントロールするための方法は薬だけではありません。痛みが少なくなる姿勢をとることや、呼吸法、電気治療やマッサージなどにより痛みを和らげるという方法もあります。そういった方法を理学療法と呼んでいます。主に理学療法士や鍼灸師などにより提供できる方法です。

e..心理療法

a.で述べたように痛みには心理的側面もあります。ストレスや不安があると痛みを感じやすくなります。慢性疼痛による動機付け療法など、痛みについて理解し、痛みが軽減する行動を学ぶという治療法もあります。

f.環境を変える

トータルペインの考え方にあるように、痛みは社会的な痛みと呼ばれる、環境による影響が大きい場合もあります。入院中には痛みを強く訴えていた方が自宅に戻ったとたんに薬などは変わっていないのに痛みを訴えなくなったという例もあります。

このような様々な方法を組み合わせて痛みを取り除く工夫をしてゆきます。

2.呼吸苦のコントロール

息が苦しいこともつらい症状の一つです。溺れてしまうような感覚に襲われてしまう人もいます。呼吸苦をコントロールするためにはいろいろな薬や道具があります。

a.呼吸苦の評価

呼吸が苦しいという症状はおもに肺の機能低下による酸素取り込みの低下によっておこります。心臓の機能低下や動脈の障害によって血液をうまく送れず脳に酸素が届かずに苦しく感じることもあります。薬物中毒による呼吸苦も起こることがあります。そのほかに、気道閉塞(喘息のような病気やおぼれるときなど)による「息がうまく吸えない」という状態でも呼吸苦を感じることがあります。

酸素飽和度(サチュレーションと呼ぶこともあります)を指で測ることで大まかな体内の酸素の状態を把握することができます。血液中の酸素濃度を正確に把握するために動脈からの採血を行って血中酸素濃度測定を行うこともあります。肺の状態を把握するために胸部X線検査や胸部CT検査、胸水の有無を見るために胸部X線検査やエコー検査、心臓の状態を把握するために胸部X線検査、心エコー検査、採血検査などが必要になることもあります。胸部X線検査はポータブルX線装置を所持している在宅医療機関なら自宅でも施行できますが、ポータブルX線装置を所持していない在宅医療機関の場合には診療所や病院に移動していただいて検査を行います。CT検査は自宅ではできないために、CT機器のある診療所や病院に移動していただいて行います。移動が難しい場合には自宅で把握できる指標をもとに判断します。

息苦しさは酸素の程度だけでなく、ご本人が苦しいと思うかどうかも重要です。酸素状態が良くても苦しく感じることはあるからです。感覚的に苦しいかどうかは測定は難しいのでご本人にどれくらい苦しいかというのを数値化していただくなどの工夫で程度の把握に努めます。

b.呼吸苦の原因となる病気の治療

呼吸苦の原因そのものを取り除くことができれば呼吸苦にかなり有効です。しかし呼吸苦が来るほどの病気の場合には根本的に解決するという問題はそう多くはありません。病気のために解決が難しい場合には呼吸苦を和らげるために以下のような方法をとります。

c.薬物治療

原因が取り除けなくても症状を緩和することにつながる治療もあります。例えば喘息による呼吸苦に対して吸入薬で気管支を拡張すると呼吸苦が解決する場合もあります。心不全による呼吸苦の場合には利尿剤などの薬が有効な場合もあります。

d.在宅酸素療法

酸素濃縮器や酸素ボンベを自宅に持ってきてそこから高濃度の酸素をカニューレ(酸素用のチューブ)やマスクで鼻や口や気管切開部に届けて高濃度の酸素を吸入してもらうことで酸素を体に届ける方法です。

e.モルヒネによる緩和

上記のような様々な方法をおこなっても呼吸苦が取り除けない場合には、モルヒネを使って「苦しい」と感じる脳の働きを抑えるという方法で苦しさを緩和することもあります。

3.その他の症状のコントロール

そのほかにも苦痛を感じる症状はあります。

吐き気

何が原因で吐き気が出ているかを考えます。吐き気はさまざまな原因があります。原因が解決可能な時にはその治療を行います。また、症状を軽くするために吐き気止めの飲み薬や座薬、注射薬などを使います。

尿意切迫感(おしっこしたいという感じ)

何が原因で尿意切迫感が出ているかを考えます。尿閉と呼ばれる尿が膀胱から出にくい状態の時が多いですが、そのほかの病態でも尿意切迫感は起こります。前立腺肥大症、膀胱炎、過活動膀胱、膀胱タンポナーデなどのときに起こります。それぞれの原因に対応する治療をおこなったり、尿道カテーテルと呼ばれる管を膀胱内に入れたままにして尿が貯まる袋を接続して尿の流出路を確保する対応をおこなったりします。

尿意切迫感の解決が困難な時にはかなりつらいです。膀胱タンポナーデと呼ばれる、膀胱内に出血して血液の塊が膀胱にたまってしまうときにはおしっこしたい感じがずっと続いてつらくなってしまいます。このような時はモルヒネやその類似薬や睡眠薬をつかって違和感を感じるのを止めてしまうしかない場合もありました。

便意切迫感(うんこがもれそうという感じ)

便意切迫感は下痢や炎症性腸疾患、骨盤神経障害など様々な理由で起こります。その理由によって対応は変わってきますが、いずれにせよ排便のコントロールが重要で、整腸剤を使ったり過敏性腸症候群治療薬を使ったりします。神経ブロックが必要な場合もあります。

腹部膨満感(おなかが張る感じ)

腹水が貯まる、腸閉塞になる、肝臓などの腫瘍が大きくなるなどの理由があります。腹水貯留の場合にはKM-CARTという腹水を一旦抜いて必要成分だけを濃縮して点滴で戻すという治療をすることもあります。腸閉塞がひどい場合には腸液の分泌を抑える薬を持続皮下注射することもあります。

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