入院医療と在宅医療の連携例

実際に入院医療と在宅医療で連携した症例を示します。プライバシー保護のため詳細を省いている部分があります。

在宅医療の向き・不向きで述べたように在宅医療での対応が可能かどうかは病気の状態などによるため、どんな状況でもできるわけではありませんが、「退院して自宅で過ごしたい」という希望がある方やそのご家族には「在宅医療でのサポートを受けながらの自宅での療養生活」を検討していただく価値はあります。

また、在宅で過ごしていても、状態の悪化などでご本人、ご家族の意向が揺らぎ、入院を希望する例もあります。そのような際には在宅医療から速やかに病院へご紹介させていただきたいと思います。

例として次のような症例の連携がありました。

症例① がんのターミナルでご本人・ご家族が自宅での最期を希望した例

高次医療機関ですい臓がんと診断され抗がん剤治療を受けていたが全身状態が悪化。意識も朦朧としてきた。まだ50代と若く抗がん剤治療に前向きだったが全身状態の急激な悪化で余命は日単位と考えられた。高次医療機関の主治医より在宅医療を担う医療機関の医師へ相談があった。

主治医「ご本人は抗がん剤を積極的に希望していた一方で、ずっと家に帰りたがっていた。妻よりもう余命が厳しいのであれば最期は家に連れて帰りたいと希望があった。余命は数日かもしれないが家に帰れないだろうか。在宅での緩和ケアや看取りをお願いしたい。」

在宅医「ご自宅で過ごす時間をお手伝いできれば」と在宅医療の担当を引き受けた。

その日の午後ご本人、ご家族は介護タクシーで退院。退院後すぐに在宅医療のチームが自宅に訪問。

状況を確認して在宅でのサポート体制を妻に説明、必要なときには訪問看護や在宅医に連絡することを説明した。

退院翌日夕方この方は亡くなったが、最期の1日を家族水入らずで過ごし、ご本人は目を覚まさなかったが、妻、子供たちはたくさんの思い出を語り合うことができた。

息が止まってから訪問看護に連絡があり、訪問看護から在宅医に連絡があって在宅医がご自宅に訪問。死亡診断を行った。

症例② 心不全のために入退院を繰り返していた方が在宅医療の介入でコントロールが良くなった例

90代の男性が高血圧と心房細動の長い経過ののち心不全となって高次医療機関に入退院を繰り返していた。入院すると塩分、水分コントロールが改善し、服薬もきちんとできるようになって改善するものの、自宅に戻ると塩分、水分、服薬のコントロールが悪くなり心不全が悪化することの繰り返しで年に3回~4回入院していた。足腰が弱って通院が難しいからということで、退院した際に外来通院の代わりに在宅医療に切り替わった。在宅医療で介入すると食事の準備や摂取の様子がよくわかり、塩分のコントロールが悪くなるのがなぜかわかるようになった。この方は健康のためにと続けていた1日1個の梅干しが塩分コントロール不良の原因であった。病院で塩分コントロールの指導を受けていたが、「梅干しは健康にいい」と信じており、梅干しの話が塩分指導に出てきていたが聞き流していた。また、体重測定、水分測定、内服管理もそれまで病院にはきちんと報告しているように見えていたが、実は測定しておらず、病院に報告していた測定値は創作であった。自宅に介入した際に体重計を見せてもらったら電池が入っていないことで判明した。改めて在宅医から塩分コントロールの大切さと梅干しの塩分コントロール不良への影響を説明。また、体重測定の大切さを説明したところ、理解が一部不十分であったことが判明した。在宅訪問する際に繰り返し説明することでようやく理解していただけた。

自宅に在宅医や訪問看護が介入するようになってから心不全のコントロールが改善し、その後2年は1度も入院しなかった。体力の低下に伴いADLが低下し、近隣の流量老人ホームに妻と二人で入居し、そこで老衰で亡くなった。

症例③ 神経難病で人工呼吸器が装着されている例

もともと神経難病のため地域の二次医療機関に通院していたが徐々に病気が進行して誤嚥を繰り返すようになり、ある時誤嚥性肺炎で入院した。誤嚥性肺炎が悪化したため気管内挿管・人工呼吸管理となった。気管切開術を施行されて気管カニューレと人工呼吸器を接続した状態となった。全身状態が安定したが人工呼吸器の離脱は困難で、2次医療機関に長期入院していた。ご本人は自宅に帰りたいと筆談でずっと訴えていたため、娘さんが自宅に引き取ることとして在宅医に相談があった。在宅医療を開始し、看護小規模多機能型ステーションと連携して在宅医療とショートステイとデイサービスを組み合わせてケアを行い、家族の生活と介護とを両立させながら療養生活が続いた。4年ほど娘さん宅での生活が続き、最終的には肺炎が悪化して娘さん宅で亡くなった。経過中に肺炎の悪化のため3度ほど急性期病院に入院した。

症例④ 自宅と緩和ケア病棟とで交互に過ごした例

大腸がんのターミナルケアのため二次医療機関から在宅医へ紹介され、在宅医療で緩和ケアを受けていた。胸水の貯留のために呼吸苦をきたし、ご本人・ご家族の不安が強くなり入院を希望したため緩和ケア病棟に入院した。緩和ケア病棟で利尿剤やオピオイドの投与で症状がコントロールできて落ち着いたらまた自宅に帰りたいと希望されたため、緩和ケア病棟からまた在宅医へと紹介されて退院した。しばらく在宅で過ごしていたが、妻が腰の圧迫骨折を起こしたため介護力がなくなり、再び緩和ケア病棟に入院した。妻の腰の症状が軽快して再び退院して自宅に戻った。最期は食事が徐々にとれなくなり自宅で亡くなられた。

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